口を開けると顎が痛む、カクカク音がする、大きく口が開かない。このような顎関節症(がくかんせつしょう)の症状に悩まされている方のなかには、「もしかして歯並びが原因なのかな?」と感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、顎関節症と歯列矯正の関係について詳しく解説します。歯列矯正で症状が改善する可能性のあるケースや、治療のリスク、後悔しないための歯科医院の選び方まで、わかりやすくお伝えします。
読み終わる頃には、ご自身の症状が矯正治療で改善する可能性があるのか、治療を検討する際にどのような点に注意すればよいのかがわかると思います。正しい知識を持って、後悔のない治療の第一歩を踏み出しましょう。
監修:
顎関節症は歯列矯正で治るのか?
顎の不調を感じている方にとって、歯列矯正がその解決策になるのかどうかは、最も知りたいポイントですよね。結論から申し上げますと、歯列矯正を行えば顎関節症が「治る」とは断言できません。しかし、歯並びや咬み合わせが原因の一つである場合には、症状が改善する可能性もあります。ここでは、その理由と現状の医学的な見解について詳しく見ていきましょう。
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結論として治るとは限らない
残念ながら、医学的なエビデンスとして「歯列矯正をすれば顎関節症は治る」と明確に証明されているわけではありません。
日本顎関節学会などの専門機関でも、歯列矯正を顎関節症の初期治療として第一選択にすることは推奨していないのが現状です。
なぜなら、顎関節症の原因は咬み合わせ以外にも、ストレスや生活習慣、顎の構造的な問題など多岐にわたるからです。そのため、高額な費用と時間をかけて矯正治療をしたからといって痛みが消えるわけではないという現実を、まずは知っておく必要があります。
※1)”orthodontic treatment would not be preventive or a treatment option for TMD.”(「矯正治療はTMDの予防法でも治療選択肢でもないと結論づけた研究もある」)
歯並びが原因の一つなら改善の可能性あり
一方で、不正咬合や咬合因子が一部の症例で関与している可能性はありますが、顎関節症は多因子性であり、歯列矯正だけで改善が保証されるわけではありません。まずは保存療法を含む診断・評価を行い、その上で必要に応じて矯正治療を検討します。
歯列矯正は顎関節症そのものを治す魔法ではありませんが、顎に負担をかけている「原因」を一つ一つ取り除くことで、結果的に症状が改善するという流れが期待できるのです。
自己判断せず歯科医師への相談が重要
重要なのは、ご自身の顎関節症の原因がどこにあるのかを正しく見極めることです。「歯並びが悪いから顎が痛いんだ」と自己判断して矯正治療を始めてしまうのはリスクがあります。もし原因が歯並び以外にあった場合、矯正をしても症状が変わらないどころか、治療中の負担で悪化させてしまう可能性もゼロではありません。
まずは顎関節症の治療経験が豊富な歯科医師に相談し、診断を受けることが大切です。専門家の診断に基づき、あなたにとって最適な治療の順序を組み立てることが、解決への近道といえるでしょう。
そもそも顎関節症を抱えている状態で矯正できる?
顎関節症の症状があるからといって、必ずしも歯列矯正を諦める必要はありません。顎関節症を抱えた状態でも矯正治療を受けることは十分に可能です。しかし、無条件に治療を開始できるわけではありません。お口の状態や顎の痛みの程度によっては、矯正を始める前に優先すべき処置があります。まずは、現在の顎関節の状態と矯正治療の関係性について、正しい知識を身につけることから始めましょう。
以下の表に、顎関節症の状態に応じた矯正治療の可否についてまとめました。
| 顎関節の状態 | 矯正治療の可否 | 優先される対応 |
|---|---|---|
| 軽度の違和感・音のみ | 可能なケースが多い | 精密検査と経過観察 |
| 強い痛みがある | 一時見送り | 消炎鎮痛処置やスプリント療法 |
| 口が大きく開かない | 症状発症時は困難 | 開口訓練や顎関節の治療 |
| 咬み合わせが原因の症状 | 改善が期待できる場合も | 矯正による咬合改善計画の立案 |
症状の安定性によっては矯正ができない
顎関節症を抱えながら歯列矯正を始める際、最も重要な判断基準となるのは「現在の症状の安定性」です。顎の関節に強い炎症や激しい痛みがある時期は、お口を長時間開けて行う矯正の処置自体が大きな負担となってしまいます。
そのため、まずはスプリントと呼ばれるマウスピース型の装置を使用したり、お薬を服用したりして、痛みを落ち着かせることからスタートするのが一般的です。症状が緩和し、顎の動きが安定した段階で矯正治療へ移行することで、安全かつスムーズに歯並びを整えることができます。
※4)”we recommend the use of a maxillary stabilization splint”(「上顎スタビライゼーションスプリントの使用を推奨する」)
まずは専門的な診断で矯正が有効なケースか確認
歯列矯正を検討する前に、なぜ顎関節症が起きているのかという原因を可能な限り評価・把握することが重要です。顎関節症の原因は、ストレスや食いしばりといった生活習慣だけでなく、咬み合わせの悪さが関わっているケースがあります。
もしも特定の歯が強く当たっていたり、顎が不自然な位置で固定されていたりすることが原因であれば、歯列矯正によって解決する可能性があるでしょう。歯科医院での診断と検査を通じて、矯正治療が顎関節症の改善に寄与するかどうかを専門医に診断してもらうことが第一歩となります。
※6)”TCH can prolong TMD pain and is associated with other behavioral factors.”(「TCHはTMD痛を長引かせ、他の行動因子とも関連する」)
顎の負担を最小限に抑える治療計画の立案が重要
顎関節症の既往がある場合、通常の歯列矯正よりもさらに慎重なシミュレーションが求められます。治療中に歯を動かす過程で咬み合わせが一時的に変化するため、その変化が顎にどのような影響を与えるかを予測しなければならないからです。
具体的には、マウスピース矯正を用いて少しずつ負荷を調整したり、顎のポジションを考慮した精密な装置設計を行ったりする手法が取られます。信頼できる歯科医師と相談し、現在の顎の状態に合わせた「オーダーメイドの治療計画」を立てることが、将来的な顎の健康を守ることにつながります。
歯列矯正で顎関節症改善の可能性があるケース
では、具体的にどのようなケースであれば、歯列矯正によって顎関節症の改善の可能性があるのでしょうか。「私の場合はどうかな?」と気になりますよね。ここでは、治療効果が出やすい条件について詳しく見ていきましょう。
咬み合わせのずれが不調の主な原因の一つ
まず考えられるのは、「咬み合わせの悪さ」が顎への負担になっている場合です。例えば、咬み合わせが深すぎて顎が自由に動かせない過蓋咬合(かがいこうごう)の方が、矯正治療によって咬み合わせの高さを適正にすると、下顎の動きがスムーズになります。
このように、物理的な干渉を取り除くことで、顎関節への圧迫や負担が軽減され、痛みが和らぐことがあります。
顎周りの筋肉の緊張が緩和される
顎関節症の痛みは、関節そのものだけでなく、顎を動かす「咀嚼筋(そしゃくきん)」の過度な緊張から来ていることもあります。咬み合わせが悪いと、常に筋肉が緊張してこわばった状態になり、これが肩こりや頭痛にもつながります。
歯列矯正によって正しい位置で噛めるようになると、無駄な筋力を使わずに食事ができるようになります。その結果、筋肉の緊張が解け、顎周りのだるさや痛みが解消されることがあります。マッサージなどで一時的に楽になるだけでなく、日常的な負荷そのものを減らせる可能性があるのが矯正治療の強みです。
歯列矯正で顎関節症が悪化するリスク
良いことばかりをお伝えするのではなく、リスクについても正直にお話しする必要があります。実は、歯列矯正を行うことで、一時的に顎関節症の症状が悪化したり、新たに症状が出てしまったりするケースも稀にあります。後悔しないために、どのようなリスクがあるのかを知っておきましょう。
治療中に咬み合わせが不安定になる
歯列矯正は、歯を動かして新しい位置に並べ替える治療です。その過程で、一時的に咬み合わせが不安定になる時期がどうしても発生します。今まで噛めていた場所で噛めなくなったり、特定の歯だけが強く当たったりすることがあり、これが顎への新たなストレスになることがあります。
通常は治療が進むにつれて咬み合わせが整い、症状も落ち着いていきますが、治療期間中に顎の痛みを感じる可能性があることは、あらかじめ覚悟しておく必要があります。
※7)”a slight increase in TMD signs and symptoms during the course of orthodontic treatment, which were mostly resolved upon completion of treatment”(「矯正治療中にTMD徴候・症状の軽度増加がみられたが、その多くは治療終了時に解消した」)
矯正のストレスが症状を誘発する
矯正装置(ブラケットやマウスピース)を装着すること自体が、患者さんにとってストレスになることもあります。口の中に異物がある違和感や、歯が動く時の痛みによって、無意識のうちに歯を食いしばってしまう方がいらっしゃいます。
先ほどお伝えした通り、食いしばりは顎関節症の大きな原因の一つです。治療によるストレスが引き金となって筋肉が緊張し、顎の痛みを引き起こしてしまうという悪循環に陥るリスクも考慮しなければなりません。
顎関節症の原因が歯並び以外にある
もし顎関節症の主原因が歯並びではなく、精神的なストレスや姿勢の悪さ、あるいは関節円板(かんせつえんばん)の器質的な損傷であった場合、歯列矯正を行っても症状は改善しません。むしろ、無理に咬み合わせを変えることで、適応していたバランスが崩れ、かえって症状が悪化することさえあります。
だからこそ、「とりあえず矯正すれば治るだろう」という安易な考えは禁物です。原因の見極めを誤ると、高い費用をかけたのに思った効果が得られないという結果になりかねないのです。
顎関節症ではどのような治療を行うのか?
ここまで読んで、「じゃあ、まずはどうすればいいの?」と思われたかもしれません。一般的な歯科医院における顎関節症の治療は、いきなり歯を削ったり動かしたりするのではなく、体への負担が少ない方法から始めるのが原則です。ここでは、標準的な治療の流れをご紹介します。
まずは指導とスプリント療法などの保存療法
顎関節症の初期治療では、まず病態教育(患者教育)とセルフケア指導が基本となり、それに加えて、スプリント療法、理学療法(マッサージ・温罨法・開口訓練)、薬物療法(鎮痛薬)、生活指導(硬い食べ物を避ける、頬杖をつかないなど)が組み合わせて行われます。
スプリント療法は、主に就寝中にマウスピース状の装置を装着し、顎関節や咀嚼筋への負担を軽減し、無意識の食いしばりや歯ぎしりによるダメージを防ぐ効果があります。ただし、スプリント療法単独ですべての顎関節症が治るわけではなく、他の治療法との組み合わせが推奨されます。
歯列矯正は原因改善のための一つの手
初期治療で痛みが和らぎ、顎の状態が安定してきた段階で、初めて「根本的な原因の一つを取り除く治療」として歯列矯正が検討されます。つまり、歯列矯正は顎関節症治療のスタートではなく、最終的な仕上げや再発防止のための選択肢という位置づけになることが多いのです。
基本的には顎の炎症や痛みが落ち着いてから、慎重に治療計画を立てていくことになります。
頬杖などの生活習慣の改善も大切
病院での治療と同じくらい大切なのが、ご自身での生活習慣の改善です。頬杖をつく、片方の歯ばかりで噛む、うつ伏せ寝をする、日中に上下の歯を接触させる癖(TCH:歯列接触癖)がある。これらはすべて顎関節に負担をかける行為です。
どんなに素晴らしい治療を受けたとしても、これらの習慣が残っていれば、顎関節症は再発してしまうかもしれません。日頃から顎をリラックスさせることを意識し、悪い癖を直していくことが、治療の成功率を高める鍵となります。
後悔しないための歯科医院の選び方
最後に、もし歯列矯正で顎関節症の改善を目指すなら、どのような歯科医院を選べばよいのでしょうか。高額な治療になるからこそ、納得のいく医院選びをしたいですよね。信頼できる医院を見極めるための具体的なポイントをご紹介します。
顎関節症と矯正の両方に詳しい歯科医師か
歯科医師にも得意分野があります。矯正専門の先生だからといって、顎関節症の治療に精通しているとは限りません。逆に、顎関節症の治療は得意でも、矯正治療は行っていない先生もいます。
理想的なのは、顎関節症の専門医等の資格を持っている、あるいは顎関節症治療の経験が豊富で、なおかつ矯正治療の知識もしっかり持っている歯科医師です。とはいえ、専門医はそれほど多くはいません。必要に応じて、専門医や専門医療機関を紹介してもらえるような、外部との連携を行なっている歯科を探すことが重要となります。
治療計画やリスクの説明が丁寧か
カウンセリングの際に、メリットだけでなくリスクについても包み隠さず説明してくれるかどうかが、最も重要な判断基準です。「あなたの場合は改善する可能性もあるが、こういうリスクもある」と誠実に伝えてくれる医師の方が信頼できます。
また、万が一治療中に顎が痛くなった場合に、どのように対応してくれるのかも確認しておきましょう。疑問や不安に対して納得いくまで答えてくれる先生となら、長い治療期間も安心して二人三脚で歩んでいけるはずです。
よくある質問
- Q. 顎関節症があっても歯列矯正はできますか?
- A. 可能なケースもありますが、痛みや口が開かないなどの急性症状がある場合は、まず顎関節症の症状を安定させてから矯正治療に進むのが一般的です。まずは歯科医師に現在の顎の状態を診てもらいましょう。
- Q. 歯列矯正をすれば顎関節症は確実に治りますか?
- A. 残念ながら、歯列矯正で顎関節症が確実に治るという保証はありません。顎関節症の原因は咬み合わせ以外にもストレスや生活習慣など多岐にわたるため、咬み合わせの不良が原因の一つである場合に限り、改善が期待できます。
- Q. 矯正治療中に顎が痛くなることはありますか?
- A. 治療中に歯を動かす過程で咬み合わせが一時的に不安定になり、顎に痛みを感じることがあります。通常は治療の進行とともに落ち着いていきますが、痛みが続く場合は担当の歯科医師に早めにご相談ください。
- Q. 顎関節症の治療と矯正治療を同時に受けることはできますか?
- A. 一般的にはまず保存療法(スプリント療法など)で顎の痛みを抑え、安定した段階で矯正治療に移行する流れが推奨されます。
- Q. 顎関節症の治療費用はどのくらいかかりますか?
- A. スプリント療法や投薬などは保険適用となるため、数千円程度で受診ができます。あとは、症状の改善が見られるまで、何回受診が必要かによって異なります。
顎関節症や咬み合わせのお悩みは、まずは歯科医師にご相談ください。
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まとめ
この記事の要点をまとめます。
- 歯列矯正で顎関節症が「確実に治る」保証はないが、不正咬合が原因の一つであれば改善するケースもある
- 治療中に一時的に症状が悪化するリスクや、ストレスが原因のケースもあるため、自己判断せず歯科医師の診断を受けることが重要
- 歯科医院を選ぶ際は、顎関節症と矯正の両方に精通し、リスクも含めて丁寧に説明してくれる信頼できる歯科医師を探すことが成功への鍵
顎の悩みと歯並びのコンプレックス、その両方を解消できれば、これからの毎日はもっと明るく快適なものになるはずです。まずは矯正歯科や顎関節症外来でのカウンセリングを受け、あなたに最適な治療の道筋を見つけることから始めてみてはいかがでしょうか。
この記事の編集・責任者は歯科医師の井津上卓也です。
歯科医師 井津上 卓也
- 略歴
- 2020年 国立大学法人 岡山大学歯学部 歯学科卒
- 2020年 医療法人社団アップル歯科クリニック勤務
- 2023年 明石アップル歯科 副院長就任
- 2024年 4月 明石アップル歯科 院長就任
- 受賞歴
- growing up 1.0 tournament 準優勝
- セミナー
- LSGP神戸
- モリタプラクティス
- GPOレギュラーコース
- i6
- 木原先生診断力アップセミナー
- ノーベルインプラントセミナー
- i6初級GBRコース
- i6抜歯即時インプラントコース
- DXGC
- ODGC
- IPRT
