歯のインプラント治療は、失った歯の代わりに、(主に)チタン製の人工歯根を埋入し、その上に人工の歯冠を被せる治療法です。
見た目も天然の歯と同じように治療することが出来、構造も天然の歯に近く、周りの歯を削ったり負担をかけることもないため、これだけ聞くと「すごく良い治療」に感じると思います。
実際に良い治療であることは間違いありませんが、中には一定数「インプラントは絶対にダメ」という意見もあるようです。もちろんそれには理由があり、納得出来る内容でもあります。
それを加味した上での当院の見解としては、「すべての人に良い治療ではないが、すべての人にダメな治療でもない」というところですが、それでは一体「インプラントは絶対にダメ」と言われるのはどのような場合なのか説明していきます。
インプラント治療は、虫歯治療と違い小さな手術のような処置が必要です。顎の骨に穴を開け、そこに人工歯根を埋入し、歯肉を縫合します。骨を削ると聞くと躊躇する方もおられますが、実際にはほんの数ミリの小さな穴ですので、侵襲(身体へのダメージ)は抜歯と同程度と患者様には説明しています。抜歯でも下顎の親知らずなどは生え方・抜き方によっては、インプラント手術より侵襲が大きい場合もあります。
しかし、問題はそこではなく、手術に伴う「感染」「リスク管理」「偶発症」です。インプラント手術は小さな穴とは言え、骨を削るため器具の滅菌処理などの感染対策をしっかりしなければ感染症を引き起こします。また、全身疾患や血圧など、全身の既往歴や骨の状態を把握しておかければ手術中に血が止まらなくなったり、インプラントが骨の中に迷入したり、薬の影響でインプラントをしたことにより顎の骨が壊死する症例もあります。
その他、手術には様々な偶発症も考えられますので、これらのリスクを考えて「治療がダメ」と言う人もおられますが、感染対策は歯科では難しいことはなく、リスク管理も全身疾患の確認やお薬手帳、CTにより確認を怠らなければ問題はありません。偶発症に関しても、予め起こり得る自体を予測しておけば、大きなトラブルになる可能性は決しては高くはありません。
インプラントはごく限られた一部を除き、公的保険が適用されない自由診療です。そのため、費用は1歯あたり30万円〜50万円(医院より異なる)と、決して安価な治療でありません。そのため、中には「歯一本にそんなにお金にかける必要があるのか」と考える方もおられます。また、その他の治療が保険で受診出来るにも関わらず、わざわざ保険の効かない治療を受けることを良しとしない方もおられます。
しかし、その時は特に何も思わなくても、1本・また1本と歯が抜けていくに連れ、もしこれを最初の1本で止める手段があったとわかったら、その手段を選ばなかったことに後悔するのではないでしょうか。そして、その1本で崩壊を止める可能性が高いのがインプラント治療であるとわかれば、費用についても納得が行く方も増えるかもしれません。
とはいえ、決して手軽に出せる費用でもありませんので、無理をしてでもインプラントにしなければいけないというわけではりません。また、中にはインプラントではないほうが良いケースもあります。お財布や歯科医師と相談しながら、今思うベストな治療を選択頂くことが、患者様にとっての一番の治療だと考えます。
インプラントの治療期間は2〜6ヶ月程度と、少し長めの治療期間となります。例えば頻繁に転勤があるご職業の場合、インプラント治療を初めて最後の補綴物が入るまでに引っ越ししなければいけないというシチュエーションもあり得ます。
また、歯が抜けたけど、数カ月後に引っ越しが決まっている場合も、半年かかるとわかれば、インプラント治療をしたくても終えることができなければ選べないということもあり得ます。
このように、治療期間により縛りが出来る可能性がある治療ですが、単に「期間がかかるから」という理由であれば、「ダメ」になる治療ではありません。
なぜなら、インプラントは期間がかかっても、治療回数は5〜7回程度です。少なくはありませんが、月に1〜2回程度です。後は免荷期間と言って、手術から骨がインプラントと結合するのを待つ期間です。もし、期間が長いだけで選択肢を外すなら、治療回数を含めて考えれば、インプラントは再度選択肢に含まれるかもしれません。
日本人の歯を失う最も大きな原因は「歯周病」です。そしてこの歯周病は、インプラントにとっても残った歯にとっても大敵です。ですから、この歯周病を改善しなければ、インプラントはインプラント周囲炎というインプラントの歯周病に罹ってしまったり、周りのはもいずれ歯周病によって抜けてしまうようなことも否めません。
そのため、歯周病を治療しない限り、歯周病で抜けた歯に対しインプラント治療をしても、イタチごっこのように次々と歯のトラブルに見舞われることになります。これは確かにインプラント治療が「駄目なケース」です。
そのため、インプラント治療を行う際は、抜けたその歯を治療するだけでなく、その原因から改善し、治療後も再発を予防するため、定期的にチェックを行うことが大切です。
インプラントは治療後にメインテナンスの必要な治療です。メインテナンスと言っても、他の歯と同じような予防処置です。治療後の経過を確認しながら歯石を取ったり、汚れを取ったり、年に1〜2回レントゲンで骨の状態を確認することで、インプラント周囲炎を予防し、周りの歯の健康も守ります。このメインテナンスは3〜4ヶ月に1度の頻度でお越し頂く場合が多いため、人によっては「面倒」と思う方もおられ、「治療したのになぜ歯医者に通わなければならないのか」と思うそうです。
しかし、この「3〜4ヶ月に1度のメインテナンス」は、本来健康な歯にも必要な予防歯科の頻度です。インプラントをしたから特別というわけではなく、歯を末永く健康的に保つためには、定期的に歯科に通って、検査と歯石取りなどのクリーニングを行う必要があります。つまり、インプラントのメインテナンスが手間と思うということは、そもそも予防歯科を利用されておられないため、他の歯も悪くなるリスクが高い方ということになります。インプラントだけでなく、周りの歯の健康を保つためにも、予防歯科は推奨されています。
では逆にインプラントが「良い」と言われる理由はどんなところでしょうか?インプラントには多くのメリットがあり、患者様の生活を豊かにする一面も多い治療です。
とはいえ、インプラントに関わらず、あらゆる治療にはメリットがあればデメリットがあり、ベネフィットがあればリスクがあります。インプラントのメリットについてはこちらをご覧下さい。
インプラントのメリットの中でも、最も重要なのは「他の歯に悪い影響を与えない」という点です。インプラント以外の治療では、ブリッジと入れ歯があります。
ブリッジというのは両隣の歯を大きく削って橋脚(支台歯)にし、失ったところを橋桁(ポンテック)という橋のような構造の治療です。両隣の歯を大きく削るため、削られた歯は寿命が短くなります。そのため、基本的には、両隣の歯が未治療で、健康な場合はブリッジを勧めるこはありません。
もう一つの入れ歯は、クラスプという金具を隣の歯にひっかけることで義歯を固定します。こちらもブリッジほどではありませんが、クラスプで引っかかるよう少し歯を削ります。そして入れ歯の場合はブリッジと違い、食事のたびに取り外して洗浄する必要があります。何度も着け外しを繰り返すと、金属によるダメージが歯にたまったり、歯が削れたりすることで合わなくなり調整や作り直しを繰り返し、少しずつ歯質を失ってしまいます。
このように、インプラント以外の治療は両隣の歯の健康を多少なりとも「犠牲」にすることで咬み合わせを維持します。その点でいうと、人工の歯根1歯で歯冠を支えるインプラントとは、構造的に天然の歯に近く、周りの歯を悪くしないという大きな利点があります。
ここまで「インプラント治療をやめたほうがいい場合」を中心に説明してきましたが、実はインプラント治療は「本当に受けてはダメな方」というケースがあります。
インプラントはチタンという軽量で丈夫な金属が使用されます。これはチタンが骨と結合するという特性を活かすためです。しかし、金属ですので少なからずチタンに対して金属アレルギーを発生する人もいます。チタンはイオン化しにくく、インプラントも骨に埋まっているためアレルギーは発生しにくいかもしれませんが、予めチタンアレルギーがわかっている場合は避けたほうが良いと考えられます。
インプラントはまだ成長が止まっていないお子様には向かない治療です。これは成長が顎や咬み合わせに関係するためで、成長途中の顎にインプラントを埋入すると、成長と共にインプラントの位置が変わってしまい、咬み合わせの辻褄が合わなくなることがあるためです。インプラントは基本的に、成長が終わった18歳以降が適齢となります。
糖尿病でも軽度であれば治療は可能ですが重度の方はインプラント治療をすると傷の治り方が悪かったり、感染しやすくなるので、インプラントの失敗の原因となる場合が多いです。そのためHbA1cという血液中の糖分の状態を表した数値が、7.0以上の方はインプラント治療を受けることができません。
高血圧の方でも、手術当日に血圧がコントロールできていればインプラント手術は可能です。手術中は血圧や脈拍を測定しながら処置を行いsます。そのため、どうしても血圧のコントロールが出来ない場合は、手術の当日でもその日は治療を断念することもあります。予め高血圧症と診断されている場合は、担当の内科医と連携を取りながら治療を行う必要があります。
骨粗鬆症の方すべてがインプラント治療ができないということではありませんが、「ビスフォスフォネート」製剤を飲まれている場合はインプラント治療は禁忌となります。その場合は医科の先生と相談しながら「ビスフォスフォネート」製剤による治療を一旦止めるなど、連携を取りながら治療を進める必要があります。
ヘビースモーカーでもインプラント治療は出来ますが、失敗するリスクが高くなります。そのため、基本的には禁煙を推奨していますが、最低でも手術の後1週間は禁煙をお願いしています。それが出来ない場合や喫煙本数が多いと、当院の場合インプラントが結合しなくても再治療をご遠慮頂く場合があります。
インプラントは優れた治療の一つではありますが、インプラント治療がすべての人にとって一番の治療ではありません。場合によってはブリッジや入れ歯の方が適している場合もあります。
治療を受けられる方のキャラクター・生活様式・考え方・ご職業など、様々な要因によって向き・不向きの治療があります。 ですから、「歯が抜けたら1番良いのはインプラント」というのは間違いです。例えば、総入れ歯になる可能性がある方に1本のインプラントを入れても、数年後に総入れ歯になった際、そのインプラントが邪魔になる場合もあります。
治療の選択肢はそれぞれの患者様ごとにあり、その中で最適な治療もまた患者様毎に変わります。しかし歯が抜けた後「治療をしない」という選択肢はよろしくありません。 しっかりと治療の内容を説明を受け、あなたにとって一番の選択を探しましょう。
ここまでご説明させていただいたように、インプラントは「絶対ダメ」という治療ではなく、「誰にとっても良い」治療でもありません。
しかし、そこでありがちなのがネットの情報だけを鵜呑みにしてしまうことです。これは決してよくありません。
ネットには正しい情報がいくつも掲載さています。また、少なからず誤った情報もあります。しかし、それらはいずれも「一般論」的な内容であり、あなたのお口の中を検査して、あなたにとっての良い選択肢の情報であるとは限りません。このサイトも例外ではありません。
ですから、本当にあなたにとって良い治療を選ぼうと思うなら、やはり歯科に足を運び、お口の中を検査した上で相談して頂く必要があります。もし、失った歯の治療のことでお悩みでしたら、あなたにとって一番良い選択をするためにも、お手数ですが一度ご相談にお越し下さい。
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